◆手間暇かけて飼育
「みゆきポーク」は平成元年、JAながのや生産農家などが「おいしい豚肉を消費者に届けよう」と発案し、それ以降、飼料の配合や育て方などの研究を重ね、4年から生産・販売を始めた。
研究の結果、飼料は、キャッサバというイモと、大麦などを混ぜ合わせ、豚肉のおいしさを最大限、引き出すための配合にたどりついた。親豚の種類も雑多にせず、父親はデュロック種に限定し、母豚も雌のランドレース種と雄の大ヨークシャー種の子供とした。3種類のブタの優れたところを引き継げるよう、人為的に交配させた形だ。
飼育に手間暇もかけている。母豚舎には分娩(ぶんべん)室もあり、生まれた子豚はここで約1カ月、暮らす。JAながのみゆき営農センター営農課の齊藤広幸係長によると、豚の雌は14個の乳が7個ずつ並んでいるため、栄養分や量が微妙に異なっているという。
母豚が1回に生む子豚は平均12、13頭。子豚は生まれてほどなく、自分の乳を決め、そこばかりで母乳を飲むといい、そのまま放置しては子豚の成長に差が出てしまう。このため時折、母乳が平等に行き渡るよう、子豚の位置を変える作業もしている。子豚への愛情はひとかたではない。
◆北信州でしか
生産農家がこだわり抜いた「みゆきポーク」は、身がしまり甘味のある脂肪が特徴で、飯山市ではトンカツ定食や丼物などとして飲食店で食せる。実際、「みゆきポーク」を食材にした料理を食べにくる観光客らもおり、「ブランド肉」としての評価が定着しつつある。
北陸新幹線の飯山駅が運用を始めるに当たり、地元名産として売り出すために作られたハムやウインナーなどの加工品も多く、地元のスーパー「エーコープ」(Aコープ)や道の駅で販売されている。
ただ、生産農家が少ないため、飯山市を含む北信州でしか味わえない。残念なのは、今ではこうした傾向が一段と深刻な事態に陥っていることだ。
◆生産基盤の拡大
生産農家の数は18年で8戸(出荷頭数約5千頭)。25年は4戸(同約3700頭)、28年になると2戸(同約2950頭)まで減少した。
今でも28年時と同じ方が養豚経営しているが、ともに70歳近い年齢だ。このうち1人は現在、体調不良で一線を離れており、「『直ったらまたやる』と言っています」(齊藤係長)。だが、ともに後継者はいない。
JAながのなどは昨年11月、地元の飯山市や県、全農長野、小売り団体などでつくる「北信州みゆきポークプロジェクト会議」を立ち上げ、初会合を開催。月1回のペースで事務局会議を開き、打開策を検討している。
会議では、生産基盤の維持・拡大が最大のテーマだが、実効性のある後継者の確保策を容易に見いだせないのが実情。生産農家は一年中、ブタの飼育に勤しまなければならない覚悟が求められる上、豚舎を設置したり、親豚を購入したりしても、子豚が出荷されるまでは収入がない。そもそもこうした初期投資も結構な金額になる。
県農政部畜産園芸課は「養豚は、豚舎の温度設定や臭い対策など畜産の中で最も難しい。プロジェクト会議の議論を見守り、『みゆきポーク』の生産・販売ができなくなる事態を何とか回避したい」としている。